原子炉が、ガラスとなる日はいつか

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原子力発電所で核分裂を起こす『原子炉』(圧力容器)は鋼鉄なので、頑丈というイメージですが、かなり違うようです。

 

金属が衝撃に耐える能力は、硬さではなく、実はやわらかさです。粘りがあると簡単に破壊されません。この『延性』(えんせい)が決め手となります。ところが、温度が低くなると、この延性が失われて、破壊されます。この境界の温度をDBTT(脆性遷移温度)といいます。

 

さて、原子炉では、特別なことが起きています。それは核分裂から飛び出してきた中性子が鋼鉄にどんどんぶつかり、その延性を奪っているのです。結果、DBTTが上がり、高温でしか衝撃に耐えられなくなります。こうなった原子炉に事故が起きると、約300℃で運転していた炉に緊急注水しても、冷却できる前に破損します。

 

写真のガラスコップは、コップをお湯の中でゆで、そこに冷水を注いでヒビが入ったものです。これを脆性(ぜいせい)破壊といいます。佐賀県の玄海原子力発電所一号機の原子炉は、中性子による影響で、DBTTがすでに98℃ではないかという『重大な疑念』があります。京都大学原子炉実験所の小出裕章助教は「こういう温度では、もう、いわゆる皆さんが思っている鋼鉄ではなく、ガラスなのです」と警告しています。常温で叩くと、破損するイメージです。

 

この原子炉のDBTTは、建設時はマイナス16℃でしたが、運転1年目で原子炉の中にある試験片は35℃に上がりました。1993年、中性子の影響を予測する『脆化予測式』によって計算すると、建設から34年後の2009年には78℃になるはずでした。ところが試験片を取り出すと、20℃も高い98℃まで上がっていたのです。つまり、この予測式は有効ではなく、結果は「想定外」だったのです。

  

「ガラスの原子炉」、言葉にすると嘘のように聞こえます。中核部分の原子炉はきわめて高い安全性をうたっています。しかし、この中核部分ですら予測式が当てにならない。原子力発電の「安全」とは、いったい何なのでしょうか。

 

 

13021号

 

 

 

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< 解説① >

 

九州電力の主張と論理破綻

 2009年に圧力容器にある4つ目の試験片を取り出したら、そのDBTTは98℃でした。この時点で、当時の原子力安全・保安院(現在は原子力規制委員会に移行)と研究者は大きなショックを受けました。1993年に脆化予測モデルによって計算されていた数値と20℃もかけ離れていたからです。

 

この原子炉は定期点検を終えた後、2010年11月2日から通常運転に入っています。しかし、九州電力はそのままでは稼働の正当性を説明できなくなるので、新たなる見識を組み立てて保安院に提出します。当初、全員がこれを受け入れようとしましたが、後で紹介する東京大学名誉教授 井野博満氏の反対で継続審議となりました。2012年5月のことです。この時、すでに福島の事故を受けて全ての原子力発電所は運転停止に入っていましたが、福島がなければ稼働していたでしょう。

 

この九電の主張を、簡単にすると

① まず、すでに予測値がずれたモデルをそのまま正しいとして、98℃になるのは2060年だとします

② その差分を、炉心からの原子炉(圧力容器)と試験片の距離の違いだと決めつけます

 

この論理が極めて幼稚なことなのは

① もともと、試験片を貼り付けた時に、距離の問題は議論されていません

 

② すでに1回目から3回目は、予測モデルの中に収まっており、この段階ではモデルは正しいと考えられていました。仮に距離が問題ならば、この時点でも数値のズレは生じます

 

③ 数値がずれたモデルを正しいとして、2060年時点を基点として帰納法的な議論をしていますが、この場合、2060年、つまり建設から85年後の原子炉の実測値がなければ、帰納法は成立しません。鶏と卵の議論になっています。

 

安全管理上、もっとも重要な原子炉の物理学計算は、今も議論されています。この正式な用語「照射予測式」を原子力規制委員会のサイトで検索すると786件ヒットします。議論はするけど運転もするのでしょうか。

 

http://www.kyuden.co.jp/library/pdf/nuclear/nuclear_irradiation110708.pdf

 


 

 

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< 解説② >

 

『原子炉構造材の監視方法』の有効性に関わる、重大問題

 日本電気協会規格では、原子炉の安全を担保するため「原子炉構造材の監視試験方法」(JEAC4201-2007)を設けています。佐賀県の玄海原子力発電所一号機の原子炉は、これを根底から揺らがせる重大問題なのです。

 

この問題をきわめて重視している、東京大学名誉教授 井野博満工学博士(専門は金属材料学)は、現在原子力規制委員会のメンバーです。氏は「原子炉圧力容器の安全性を担保するのが予測式。それが合わないとなると非常に危ない」と指摘され、2012年5月31日に原子力規制委員会で、文章による論争をしています。

 

http://www.nsr.go.jp/archive/nisa/shingikai/800/30/016/16-12.pdf

 

 

【井野博満・東大名誉教授(金属材料学)】 

 精度が上がった最新の予測式で脆性遷移温度6 件を推定すれば70度程度になるはずで、実測値は全く異なる。想定以上の劣化と考えるのが自然だ。衝撃試験で試験片がどのように壊れたのかなどの検査結果公表が不可欠だ。

 圧力容器の材質にばらつきがあり、一部が想定外にもろくなっている可能性もある。事故などで緊急冷却装置が作動して一気に水が注入された場合、運が悪ければ温度差による応力に耐えきれず破損する。原発管理を運に任せることは許されず、98度を容器本体の数値と見て対策を考えるべき。

 

 

■2012年8月9日(木) テレビ朝日 モーニングバード 小出裕章氏

「規制委員の一人に東大名誉教授の井野博満さんがいらっしゃいます。彼も原子力ムラからは離れた立場でずっとまぁ原子力の危険性というものを指摘し続けてきてくれた人ですから、彼のような人が原子力規制委員になってくれるというのであれば、私は歓迎したいと思います。」(小出先生)

 

 

 

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